砂糖水と雑記帳

なんでもない日常の雑記帳 ~猫と暮らしてゲームして~

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関心領域を見てヒロシマを知りたくなった。

ずっと気になっていた映画、関心領域をアマプラで視聴しました。

アウシュビッツを描いた、戦時下の姿を描いた作品だと気合を入れて見た結果、肩透かしと同時に強烈なパンチを喰らった感覚です。

美しいお庭

映画を見ていて印象的だったのは、美しい庭。

主人公であるルドルフ・ヘスの住まう家は、今の時代の私の目にはメルヘンで可愛らしく魅力的で…。

何よりも妻のヘートヴィヒが熱心にお世話をする庭の美しさと豊かさは、ため息が漏れるほどでした。

だからこそ、この庭の壁1枚隔てた向こうがアウシュビッツ強制収容所であるという事実に戦慄するのですが。

庭が美しければ美しいほど、家族が仲睦まじく幸せそうであればあるほど、壁の向こう側の存在が色濃く描かれているように感じます。

直接的な描写が作中一切無いのも、それが大きな鈍器のようになってラストに私の頭に振り落とされた感じで。

戦争を描いた作品を見るという覚悟で映画を見始めた私に大きな肩透かしを喰らわせ、エンドロールに至るラストで全身を鳥肌塗れにしたのです。

 

この記事を書くために作品のwikiページを見てみたのですが、あの美しい庭を作るために撮影開始のかなり前から準備がされていたんですね。

撮影のためだけに移され揃えられたものではなく、きちんとあの場所に息づいている命たちだったのだと思うと、あの美しさや豊かさも納得です。

見え隠れする戦争

映像面で直接残虐な描写がない作品ですが、人々の会話で確実に異常が存在していることを描いています。

奥様方のお茶会でも、毛皮のコートの話を笑いながらしている姿がありました。

また、ユダヤ人の持ち物であったであろうものを漁って分配したり、「あれが欲しい」と強請っていたり。

それが壁のこちら側にいる彼らにとっては日常になっていたんですよね。

当時の思想(と言っていいのか…)、「ユダヤ人の富は本来自分たちのもの」という感覚があったようですし、そこに罪悪感みたいなものがないというのは、自然と言えば自然だったのかもしれません。

 

基本的に昼間の時間帯を長く描いているように感じたのですが、時々やってくる夜は意図的に不穏さを描いているようにも見えました。

収容所の人たちのためにリンゴを持っていく女の子。

収容所から煌々と燃え上がる赤い炎や煙。風に乗って流れてくる匂い。

日中は壁のこちらで穏やかに幸せに暮らしている風の彼らですが、不穏さをきちんと受け取っている人も存在していて。

ヘスと妻のヘートヴィヒの間には5人の子供が居ますが、夜な夜な起き出しては眠れない子がいたり、家を訪ねてきたヘートヴィヒの母親も何も言わずに家から出て行ってしまったり。

私が見ていて一番恐ろしかったのが、兄弟の中で下の男の子。

多分小学生低学年くらいの年齢かと思うのですが、壁の向こうから聞こえる怒声と銃の発砲音・人の悲鳴に「悪いことしたから仕方ない」みたいな、冷めたことをボソッというんですよね。

それが部屋で一人で人形遊びをしているシーンだったのも、怖かった。

当たり前になって鈍化していくことの方が楽だったのかもしれないけれど、染みついた狂気のようなものはその後彼をどんな人間にしていくのか…。

顕になって思うこと

分かりやすい戦争描写を一切しないまま、映画はとても淡々とラストに向かっていきます。

そんな中、唐突に現在のアウシュビッツ収容所の様子が映る。

資料館として当時の様々な物が置かれているアウシュビッツ

そこを掃除している職員の方々。

ぽんっと劇中に投げ込まれたその映像は、水に投げ込む石のようで。

それが身の内に波紋を広げるように感じていると、エンドロール。

ここで強烈に全身に鳥肌がたちました。

音がね、怖かった。

これは多分、この作品を見ている人なら必ず言及しているんじゃないかと思うことですが、とにかく音にとてつもない役割を担わせている映画なんですよね。

私はずっとヘッドホンをして見ていたんですけど、エンドロールが本当に辛くて。

 

そして思ったのが、見せないこと・見ないこと・見ようとしないことへの大きな打撃。

作中一切映されなかった残酷な映像の"映さなかった"ことへの大きな意図があるように感じられました。

それが、純粋な知りたいという欲求に繋がったように感じるので、戦争映画として本当に良作だと私は感じています。

火をつける1作

映画を見ながら自分の知識の無さになんとも言えない気持ちになりました。

そもそも主人公であるルドフル・ヘスも実在の人物だと知らず、作中何度も名前が出てくるヒムラーも分からなかったんです。

ヒトラーとかゲッペルスは知ってるけど、正直私の知識ってその程度。

だからこそ、ちゃんと知っていればもっと作品の奥深くに触れることができただろうな、と感じています。

その一方で、アウシュビッツ強制収容所の所長家族の姿を見ているという視点では、かなり楽しめたと思います。

ありふれたというより、かなり幸せそうな一家。

その向こうに見え隠れするモノの存在との対比は、知識がなくても十二分に味わうことができました。

 

この映画を見て私が最初に思ったのは、広島に行ってみたいということ。

生まれて今まで広島に行ったことのない私。

原爆ドームや資料館など、テレビで見聞きする程度でしか知りません。

知らないこと、目を向けてこなかったことに対しての打撃を喰らった感覚で、いちばんに思ったのが海外ではなく国内の負の遺産と言われるようなものたちのことでした。

広島だけでなく探せばきっと色んな場所に戦争というものに触れられるところがあるんだと思います。

記録や資料、語られてきた言葉など。

アウシュビッツホロコーストの歴史ももちろん知りたいものだけれど、私にとってはまず何よりも日本のそういったものに触れていきたいという欲求をダイレクトに高めてくれる映画でした。

 

また時間をおいて見たい作品だとも思っています。

この記事を読んで興味を持たれた方はサブスク等で配信されていると思うのでぜひ視聴してみてくださいね。

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